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リーマン・ショックから10年、高まる中国の金融リスク=大和総研

2018-10-01 13:30

 中国の経済成長が緩やかに減速する中、リーマン・ショック時に発動された4兆元の景気対策などによって膨れ上がった債務問題が今後の中国経済に与える悪影響が強く意識されるようになってきた。大和総研経済調査部の主席研究員 齋藤尚登氏は9月28日、「リーマン・ショック後10年の中国 ~高まる金融リスク~」と題したレポート(全2ページ)を発表し、「4兆元の景気対策の後始末であるデレバレッジは始まったばかりであり、しかも早々に試練に直面しているのである」との見方を示した。レポートの要旨は以下の通り。
 
 リーマン・ショックを契機とする世界金融危機に際し、中国政府は年間で8%の実質GDP成長率を死守する「保八」を合言葉に、2008年11月に4兆元(当時の為替レートで57兆円)の景気対策を発表した。これを機に、インフラ、不動産、製造業を中心に資金需要が一気に高まり、まずは銀行貸出、ついでシャドーバンキング(影の銀行)からの資金調達が急膨張した。
 
 固定資産投資の急増をけん引役に中国経済は世界に先駆けて回復した一方で、債務残高は急増した。BIS(国際決済銀行)統計によると、債務残高のGDP比は2008年末の141.3%から2017年末には255.7%に急上昇した。この水準や上昇ペースの速さは、かつて金融危機に陥ったり、バランスシート調整による景気急減速を余儀なくされた国々に匹敵している。
 
 中国の債務問題をより詳しく見るために、主体別債務残高のGDP比の推移を確認すると、政府は2008年末の27.1%から2017年末には47.0%に、同様に家計は17.9%⇒48.4%、非金融企業は96.3%⇒160.3%となっており、特に非金融企業の債務が急膨張していることが分かる。非金融企業の債務残高の8割程度は国有企業によるものとされ、本来であれば政府が負うべき債務を国有企業が肩代わりしている可能性が高い。
 
 これを政府債務に準じると考えれば、中国の実質的な政府債務残高のGDP比は47.0%ではなく、175.2%(47.0%に160.3%の8割を足した数字)と、日本(212.3%)の債務構造に近いと見ることが可能である。ちなみに、日本の政府債務残高のGDP比は極めて高水準であるが、そのほとんどを国内勢が保有しているため、金融危機的なものは起こりにくいとの指摘がある。実は、これは中国にも当てはまる。国有銀行と国有企業の関係は極めて密接であり、銀行貸出は国有企業に集中する傾向が強く、シャドーバンキング経由の資金調達も地方政府融資平台(中国版第三セクター)と呼ばれる国有企業が一部を占める。いずれも資金の出し手のほとんどは国内勢である。
 
 次に、家計の債務残高について、IMF(国際通貨基金)は「家計債務残高の増大は、住宅価格の急速な下落のようなショックが起きた場合に、金融危機の下地となる」としている。かつて不動産バブルが発生し、それが崩壊した経験を持つ日本の場合、1990年~2000年にかけて家計債務残高のGDP比は70%を超える局面が多かったが、2017年末時点は57.4%となっている。それと比較すると、中国の水準は低く、現在の水準であれば家計債務を発端とする金融危機が発生するリスクは低いといえる。問題は家計債務の増加ペースが速いことである。GDP比は2008年末(17.9%)から2017年末(48.4%)の9年間で30.5%ポイントの急上昇を見せた。このペースでの上昇が続けば2024年前後には日本のバブル期に比肩することになる。このことは当然のことながら大きなリスクとなり得、今後の動向を注視する必要がある。
 
 このように見ると、当面は中国の債務問題が暴発する可能性は低いが、中長期的には金融危機的な状況が生じる可能性は否定できなない。特に、喫緊の課題は、非金融企業(国有企業)のデレバレッジ(負債比率の引き下げ)である。このため、2017年春以降は、金融リスクの軽減が重要政策に位置付けられ、リーマン・ショック後の資金調達の中核を担った地方政府融資平台を含む企業のデレバレッジが推進されたのである。ちなみに、中国の債務残高のGDP比は2017年9月末の256.9%まで上昇が続き、12月末にかけて若干低下した。
 
 しかし、それから1年が経過し、皮肉にも今度はその行きすぎが警戒されるようになっている。デレバレッジに関連して、社会資金調達金額のネットの増減額は、広義のシャドーバンキング(委託貸出、信託貸出、未割引の銀行引受手形、企業債券発行額、非金融企業の域内株式発行額の合計)が、2018年5月~7月の3ヵ月連続で大幅な純減(回収・償還超過)となる異常事態が発生した(8月は若干の増加に転じた)。シャドーバンキングは銀行へのアクセスが不利な小型・零細企業の命綱であり、企業は資金調達難に陥り、資金繰りの悪化から企業倒産が増加する可能性がいやがうえにも高まった。
 
 さらに、足元のインフラ投資の急減速にもデレバレッジが関わっている。インフラ投資は2013年~2017年前半まで20%程度の伸びが続いたが、その後は減速傾向を強め、2018年1月~8月は0.7%増にとどまった。これは、PPP(官民連携)によるインフラ投資プロジェクトの一部停止や見直しが広がったことが背景であり、デレバレッジが推進される中、地方政府債務を急増させかねない、資金調達の肩代わりや投資元本・収益の保証などが禁止された。
 
 こうして景気減速懸念が高まったことから、2018年7月23日の国務院常務会議は、【1】財政政策の一段の積極化、【2】金融政策の穏健中立から穏健への緩和、【3】小型・零細企業へのサポート強化、【4】建設中のプロジェクトの資金手当て支援、といった景気サポート策を発表した。さらに、7月31日の党中央政治局会議は、(1)経済の安定した健全な発展を維持し、積極的な財政政策と穏健な金融政策を堅持する、(2)「弱点の補強」をサプライサイドの構造改革の当面の重点に置き、インフラ分野の「弱点の補強」に注力する、などの方針を打ち出した。
 
 今後は、景気サポートのため、緒に就いたばかりのデレバレッジが棚上げされることが懸念されよう。足元のインフラ投資の腰折れは、不健全で金融リスクを高め得るPPPプロジェクトの見直しが背景である。こうしたプロジェクトを継続・拡大すれば、デレバレッジは難しくなる。残念ながらこの懸念には根拠がある。サプライサイドの構造改革は、過剰生産能力の解消、過剰不動産在庫の削減、デレバレッジ、企業コストの引き下げ、そして弱点の補強の5つからなるが、7月31日に開催された党中央政治局会議では、当面は「弱点の補強」、特にインフラ分野の弱点の補強を最優先することが明示された。デレバレッジの重要度は相対的に低下したのである。
 
 デレバレッジを漸進的に進める以外に、ソフトランディングの道はないのは明らかであるが、それを貫徹することはできるのであろうか。リーマン・ショックから10年が経過する現時点で、4兆元の景気対策の後始末であるデレバレッジは始まったばかりであり、しかも早々に試練に直面しているのである。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF) /*snsボタン*/

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